スコットレールといえば、長距離バスやフェリーともに、スコットランド内の移動に欠くことのできない、公共交通機関。このあいだ、スコットレールを使って、スターリングの近くのダンブレン(Dunblane)という町に行った帰り、ちょっとしたハプニングがありました。
列車が動き出してしばらくした時、さきほどの車掌さんがやってきて、「さっきはスターリングで乗り換えるようにって言ったけど、そうじゃなくて、さらに4つ先のポルモントまで行って、そこでエジンバラ発のグラスゴー行きに乗り換えてください。ポルモント駅では、跨線橋を渡って反対側のホームに行ってくださいね」と、とても親切に教えてくれました。しかし、実はこれがこの後の意外な展開の始まりだったのです。
列車は遅れることもなく4時半ころにポルモント(Polmont)に到着しました。ポルモントは駅員もいないフォーカーク(Falkirk)郊外の小さな駅です。駅で時刻表を確認すると、グラスゴー行きは4時53分。まだ20分くらいあるなーと思って、ホームで列車をぼーっと待っていると、4時45分頃に一本の列車がやってきました。この列車、正面の行き先表示器には何も表示されていません。ただ、使われている車両やお客さんの様子から察するになんとなくグラスゴー行きのような気がしなくもありません。しかしグラスゴー行きが来るには早すぎるし、この路線にはアバディーンやインバネス方面へ行く列車も通るので、もし間違って乗ってアバディーンまでノンストップなんてことになったら大変ですし(そんな列車は多分ないと思うけれど)、あと10分も待てばグラスゴー行きが来るはずなので、その列車は見送ることにしました。
ところがその数分後、ホームに設置されているスピーカーから、次のようなアナウンスが流れました。「線路上での作業の都合上、本日は特別ダイヤで運行しています。次のグラスゴー行きは5時42分です。」えー、それって今からまた約一時間も待つということじゃないですか。ホームで列車を待っていた他のお客さんたちも、時刻表を確認しにいったり、ぶつぶつ何か言ったりしています。と、その中の一人の女性がホームに設置されているHelp Pointにあるインターホンのスイッチを入れ、苦情を述べはじめました。インターホンの話し相手は、どこかの集中管理センターにでもいるのでしょうか、どうも話の要領を得ません。女性は、4時45分の列車に行き先表示がなく、なんのアナウンスもなかったことに対して文句を言っているのに、係の人は、エジンバラのヘイマーケット駅付近での作業のため、次の列車は5時42分になると繰り返しているだけ。話の流れから察するに、さっきの列車はやっぱりグラスゴー行きだったようです。こりゃ、もう一時間待つか、スターリング経由でグラスゴーに戻るか、バスか何かを探すかちょっと考えるかー、とあれこれ思案をめぐらしていたら、数分後いきなり例のHelp Pointのインターホンが鳴って、「先ほど話しをした女性の方、応答してください」と、係の人の声が聞こえてきました。そして係の人が女性に、「何人の人が乗り遅れたか確認してください」と言い、その女性がホームにいる人に尋ねたところ、グラスゴーに行く人が私も含めて7人、途中駅のクロイ(Croy)に行く人が一人でした。それを聞いた係の人は、「先ほどの状況をホームの監視カメラの録画映像で確認しました。グラスゴー行きに乗れなかった事情が分かりましたので、今からタクシーを手配します。跨線橋を渡って反対側にある駐車場で10分ほどお待ち下さい。」とのこと。トラブル時の対応が必ずしもいいとは言えないこの国で、これはとても意外なことでした。
さて、駐車場でタクシーを待つこと約10分、ようやく小さなタクシーが一台来て、クロイへ向かう一人がそれに乗って、走り去って行きました。しかし、グラスゴー行きのタクシーはなかなか来ません。と、その時今度は駅全体に聞こえるスピーカーから聞き覚えのある声が。「大型のタクシーはすぐに準備できなくて、すみませんがあと5分ほどお待ち下さい。」とのこと。「これじゃ列車に乗った方が早く着くかもねー」などと冗談を言いあいながら待っていると、ようやく7人が乗れるタクシーがやって来ました。みんなで乗り込んでさあ出発という時に、その内の一人が「グラスゴーのクイーンストリート駅には何時頃に着きますか?」と尋ねたところ、運転手さんいわく、「30分くらいで着くよ」とのこと。これには思わず耳を疑ってしまいました。ここは、フォーカークよりもさらに東、とても30分で着くとは思えません。ところが、この運転手さん、モーターウェイに入るなり、とばす、とばす。運転席の速度計は見えないけれど、常に追い越し車線を走り、左側の走行車線を走っている車をすいすいと追い抜いて行きます。走行車線を走っている車だって、70mph(時速約110km)以上で走っているだろうし、このタクシーはいったいどれくらいのスピードで走っていたのでしょう。かなりスリルに満ちた走行のすえ、タクシーは無事クイーンストリート駅に到着。途中工事中の徐行区間もあったけれど、35分で着いてしまいました。
タクシー代は、当然スコットレールの負担でした。しかし、もし最初からちゃんと行き先表示器に「グラスゴー行き」と表示していればこんなことにならずに済んだわけで、少しずつサービス向上の努力をしているスコットレールとはいえ、まだまだ改善の余地はありそうです。